2008年01月17日

地球の中心の善と悪:
ケチュア族のクリスマス・キャロル
〔Good and Evil at the Center of the Earth:
A Quechua Christmas Carol:Original Article in English/ZNet原文

グレッグ・パラスト〔Greg Palast〕GregPalast.com;2007年12月26日

キト――何がそうさせたのかは分からないが、エクアドル大統領〔ラファエル・コレア〕との一時間に亘るインタビューで私は彼の父親について訊ねた。

私が訊く質問はバーバラ・ウォルターズ〔有名な米女性キャスター〕がするようなものではない。

彼はためらった後に、こう述べた。「私の父親は失業者でした。」

一息ついた後、彼はこう付け加えた。「彼は少量の麻薬を米国に持っていきました……これをスペイン語ではmula[麻薬密輸入者]と呼びます。彼は米国で4年間過ごしました――刑務所で。」

彼は続けた。「私の父親について語ったことはこれまで一度もありません。」

どうやらその通りであった。彼のスタッフは硬直し、唖然としていた。

そのぞっとするようなチャンスにコレアの父親が飛びついたのは、エクアドルのほぼ全ての家族と同様に彼の家族が極貧状態にあった1960年代のことであった。エクアドルは最初の「バナナ共和国」であった――そして当時バナナの価格は底値をついていた。成人人口全体の約十分の一に相当する百万人の切羽詰ったエクアドル人たちは、あらゆる手段を用いてアメリカ合衆国へと逃げ出した。

「彼は米国で働いている、と母は私たちに言って聞かせました。」

刑務所から釈放された彼の父親はエクアドルへと強制送還された。屈辱を受け、貧しく、打ちひしがれた彼の父親は、後に私は知ったのだが、自殺を遂げた。

正式なインタビューの終わりに、この困難に満ちた国をかつて支配していた青白い顔の金権政治家たちの絵が飾られた出入り口を通り、彼は大統領執務室へと私を案内した。壁に掛かった風変わりな額に入れられた手紙について私は訊ねた。それはクリスマス時期に彼の娘と彼女の小学校から送られたものである、と彼は言った。彼は私のために翻訳してくれた。

「エクアドルには沢山のとても貧しい子供達が街路にいることを忘れないで欲しいから私達は書いています。そして、どうかお願いだから、ほぼ毎晩寒い思いをしている子供達を助けてください。」

それはいくぶん芝居がかっていた。そして快くもあった。政治家にとっては抜け目のない飾り。

あるいは、そこには他の何かがあるのかもしれない。

ケチュア族と混血民族で構成されたこの国家で選挙に勝利した浅黒い肌をした最初の人々にコレアは数えられる。確実に庶民の出のひとりに数えられる。最大のバナナプランテーションを所有する、エクアドルで最も裕福な人物〔アルバロ・ノボア〕に対して彼は逆転勝利した。

コレア博士、と呼ぶべきである。彼はヨーロッパで取った経済学の博士号を持っている。コレア教授と彼は公式に呼ばれている――ごく最近まで彼はイリノイ大学で教壇に立っていた。

そしてコレア教授博士は非常に強靭な人物である。彼はジョージ・ブッシュに、米軍基地を赤道の太陽が輝かない所へと移すよう告げた。エクアドル金融の喉もとを掴み、思い通りに支配してきた国際通貨基金〔IMF〕と世界銀行にくたばれ、と彼は言い放った。財政上の銃を突きつけられて彼の前任者達が取り決めた「協定の数々」を彼は引き裂いた。高利の利子をエクアドルに請求していたマイアミの債券ハゲタカたちに、彼は債券を肩代わりするよう伝えた。「私達の国民の貧困によって、この負債を返すことはありません」と彼は述べた。食糧が第一であり、利子返済はその後、ずっと後ということである。そして彼は本気だった。

それは驚くべきパフォーマンスであった。二年前に私は彼の前任者アルフレド・パラシオ大統領に会ったことがある。彼は心ある人であり、私が彼に見せたIMFの秘密協定に目をやりながらこう私に語った。「これ程の負債を払うことはできません。もし払ったとしたら、私達は死んだも同然です。私達が死んだら、どうやって返済するというのでしょう?」パラシオはこのことをジョージ・ブッシュやコンドリーザ・ライス、そしてポール・ウォルフォウィッツが当時率いていた世界銀行に説明する、と私に語った。彼らが理解を示すことを彼は確信していた。彼らが理解を示すことはなかった。彼らはエクアドルを奈落へ突き落とした。

しかしエクアドルは、どん底へ落ちることはなかった。当時の経済相であったコレアがウーゴ・チャベス・ベネズエラ大統領を内密に訪問し、緊急融資を調達した。こうしてエクアドルは持ちこたえたのである。

そして栄えた。だがコレアはそれで良しとしなかった。

大統領に就任して最初の仕業のひとつは、アメリカ合衆国にいるエクアドル人難民のための基金を設置することであった――わずかな現金と多くの尊厳と共にエクアドルへ帰国するべく、彼らに貸付金を与えるために。とはいえまだそこには克服すべき問題の数々が立ちはだかっていた。彼とパラシオは米国の巨大石油企業オクシデンタル・ペトロリウムを国外へと追い出した。

コレアはこれでも良しとしなかった。

私は熱帯雨林へのとてもじめじめとした訪問から帰ってきたばかりであった。アマゾンにあるコファン族の集落へと私はカヌーで訪れた。そこでは小児癌が蔓延していた。先住民族の人々はその癌を、現在はシェブロンの一部であるテキサコ石油とその共同経営者らが残していった石油スラッジ〔堆積物〕が溜まった数百もの露天採掘場に結び付けていた。私はコファン族の首長に会った。彼の三歳の息子はおそらく汚染されていたと思われる水で泳いだ後、血を吐きながら上がってきて死亡した。

以前コレアも熱帯雨林に訪れていた。とはいえおそらくカヌーよりも頑丈な何かで。そしてコレア大統領は、それらの汚い採掘坑を残していった企業は、その後始末のために支払いをすることになる、と公表した。

とはいえ彼が挑戦しているのは、そんじょそこらの企業ではない。シェブロン最大の石油タンカーの名称は、その重役会議の古参メンバーにちなんで「コンドリーザ」と名づけられた。我らが国務長官である。

コファン族はコンディ〔コンドリーザ・ライス国務長官の愛称〕の企業を告訴し、その石油企業が密林地帯へ残していったゴミを処理するよう要求した。その費用はおおよそ120億ドルに上る。コレアは民事的なものであるその訴訟自体について意見を述べない。とはいえ、エクアドル市民らに有利な評決が下された場合、シェブロンが全額支払うことを確実にする、とコレアは私に語った。

彼は冗談を言っているのだろうか? これまで如何なる石油企業にも汚染物質に対する支払いをさせた者は誰一人としていない。アメリカ合衆国においてですら、エクソン・バルディーズ号原油流出事故に関する裁判は延々と続き、18年目に入っている訳注1。しかしコレアはひるまない。

もし必要であれば、集金するための国際法廷を創設する、と彼は私に述べた。報復として、米国の法廷でエクアドルを訴える米国企業に対する支払いを彼が停止することもできる。

これは非常に過激である。ブッシュや巨大石油企業に対してこのような脅迫をし、生きながらえて成功したものは一人としていない。誰一人として。

所変わって、キトを見下ろすオフィスタワーで、シェブロンの弁護士達は面白く思っていなかった。私は彼らに落ち合った。

「それで、それは世界で唯一の癌の事例なのですか? 米国でどれだけの小児癌の事例があるのでしょう?」エクアドルにおけるテキサコの首席弁護士を務めるロドリゴ・ペレスは、インディアンたちが直面するであろう法律上の問題点、シェブロン・テキサコが彼らの子供達の死を招いたということを証明する困難さに関して、ひとり笑いしていた。「そこに癌患者がいたとして、[コファン族の親達]は、[死因が]原油あるいは石油産業によるものであることを立証しなければならない。そして第二に、彼らはそれが私達の原油であることを立証しなければならない――それは全く不可能である。」彼はまた笑った。これは映像を見ないと信じられないであろう。

この石油企業の弁護士はこう付け加えた。「癌と原油の間の関連性を科学的に証明した者はこれまで一人としていない。」本当に? その代物の中で泳いでも、何の問題もないと?

コファン族はこれまでにもそう聞かされてきた。シェブロンのテキサコ班が彼らの土地を訪れた時、その石油関係者達は原油を腕に塗りつけると病気が治ると語った。さて、コンディの配下たちは原油が癌を生じさせることはないと私に述べた。たしかに彼らが正しいのかもしれない。私は専門家ではない。というわけで、私はある専門化に電話を掛けた。ロバート・F・ケネディ・ジュニア〔ロバート・ケネディの息子〕、ペース大学環境法学教授は、原油製品の成分――ベンゼン、トルエンやキシレン――「は周知の発癌性物質です」と述べた。アマゾンにあるシェブロン・テキサコ社の醜い露天採掘場を見たことがあるとケネディは私に語り、そしてこの有毒な投棄はアメリカ合衆国では刑務所行きにつながる、と述べた。

とはいえ、衝撃的だったのはシェブロン・テキサコの弁護士達が述べた事と言うよりは、彼らがそれを述べたその仕方であった。忍び笑いで応じられる小児癌。カントリークラブの社交場で見かける混血のメキシコ系米国人のような、ブロンドのふっくらした髪型をしたこのシェブロンの弁護士、裕福な男、ハイメ・バレラは、コファン族が直面するであろう克服することのできない法律上の障害について歓喜で我を忘れていた。特に次のことを。つまり、シェブロンはその資産全てをエクアドルから引き上げているのである。インディアンたちが勝訴することは有り得るのだが、彼らは一銭たりとも手にすることはない。「このオフィスの椅子なんかはどうなのですか?」と私は訊ねた。コファン族が少なくともそれらを入手することは有り得ないのだろうか? 「いーや、」彼らは笑った。それらの椅子はその法律事務所名義で所有されている。

ところで、今彼らは笑っていないかもしれない。インディアンたちが勝訴した場合、彼らを保護するべく大統領権限を行使するというコレアの脅迫は衝撃的である。誰もそんなことを予期していなかった。そして愚かではないコレアは、シェブロンに敵対することがブッシュ政権の権威そのものに敵対する結果になることを承知している。しかしながら、この大統領にとって全ては公正や公平さの問題なのである。「あなた方[アメリカ人]は自国民にこのような事はしないでしょう」と彼は私に語った。いいえ、しますとも、とアラスカの先住民のことを思い浮かべながら私は考えていた。

コレアが類まれなわけではない。彼は中南米における新しい類の政治家の新顔である。ブラジルのルラ大統領、ボリビアの大統領に就任した史上初のインディアンであるエボ・モラレス、ベネズエラのウーゴ・チャベス大統領。報道によれば、彼ら皆「左翼」である。とはいえ彼ら全員には別の共通点がある。つまり、ふっくらした金髪のエリートによって永遠に支配されてきた浅黒い肌をした民衆で構成された国家の指導者になっていた、浅黒い肌をした労働者階級に属する、あるいは貧しい子供たちなのである。

私がベネズエラにいた時、旧体制の指導者達はチャベスを「猿」と好んで呼んでいた。チャベスは誇らしげに「私は黒人でインディオ系〔negro e indio〕です」と私に語った。殆どのベネズエラ人と同様に。金髪に支配された国軍の下士官の位から出世していった若者であったチャベスは、疑いなく「猿」という嘲りの多くを耐えてきたであろう。今や、中南米全域で「猿たち」が指揮権を握っている。

そして彼らは経済的な檻の錠を外している。

事によると、この傾向は北へと漂って行くかもしれない。赤道の遥か上に位置するある国家は、金髪の石油企業重役によって牛耳られている。彼は石油でそれほど稼いだことはなかった――だが彼が自らの資金、あるいは投資家の資金を失くす度に、彼の父親、もうひとりのオイルマンが彼に別の油井を与えたのであった。そしてフィリップス・アカデミー・アンドーバー高校出の裕福な若者であった時、このわがままな青年がコカインに手を出した時もまた、父親が処理した。ひょっとすると、若かりし頃のジョージはその粉末をエクアドルから来たある男から入手したのかもしれない。

これがあまりにも単純な物語に聞こえることを私は承知している。死んだ子供達を持つ善玉のインディアンたち。そして子供の癌をあざ笑い、石油資源をめぐり椅子取りゲームに興じる悪玉の石油富豪たち。

だが、ひょっとすると、物事はこれほど単純なのかもしれない。ひょっとすると、この世界には善と悪が本当に存在しているのかもしれない。

ひょっとするとサンタクロースが私達のためにそれらを区別して、誰が良い子でいたか、誰が悪い子でいたかを教えてくれるかもしれない。ひょっとすると、あの混血の弁護士はクリスマスイブに目覚めると、未来のクリスマスの亡霊訳注2を目の当たりにし、コファン族の飲み水から石油スラッジを取り除くことを約束するかもしれない。

あるいはことによると、私たち自身で解決しなければいけないのかもしれない。エメルヒルド酋長に会った時、何年も前のある夕刻を思い起こさせた。それはアラスカ州プリンス・ウィリアム湾の人里離れた、チュガッチ先住民〔Chugach〕のチェネガという集落でのことである。エクソンの石油による損害を私は調査していた。チェネガの浜辺の至るところに石油スラッジがあった。それは1991年3月であり、そして私はその島の海岸にある、村落の長老ポール・コンプコフ〔Paul Kompkoff 〕の家でCNN〔米ニュース専門放送局〕を見ていた。〔イラクの〕バグダッドやバスラで「スマート」爆弾が爆発するのを沈黙の内に凝視していた。

その直後、ポールはあのゆっくりとして物静かな仕方で私にこう言った。「さて、今や私達皆が原住民になったようだね。」

確かにそうなのかもしれない。だがそうである必要はないのではないか?

ことによると、地球の中心に位置するこのちっぽけな国から手引きを得ることができるのかもしれない。私はコレア大統領との会話を思い起こした。そして私が彼の娘に請け負えることは、彼女の父親がキトの街路にいる「寒い思いをしている子供達」のことを忘れるのではないかと心配する必要はなかった、ということである。

なぜなら、その教授博士は未だにその内のひとりなのだから。


訳注:

1.エクソンバルディーズ号原油流出事故:1989年3月に起きた、海上で発生した人為的環境破壊のうち最大級のものとみなされている事故。(参照元

2.未来のクリスマスの亡霊:チャールズ・ディケンズによる小説『クリスマス・キャロル』に登場する霊。血も涙もなく、強欲で、金儲け一筋の主人公エベネーザ・スクルージに悪夢の様な未来を見せるのだが、それは未だ変えることができることを教える。(参照元

posted by Agrotous at 19:38 | TrackBack(0) | エクアドル
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