2007年08月25日

中南米民主主義に対するワシントン・ポスト紙の偏見
〔The Washington Post’s Bias Against Democracy in Latin America:Original Article in English/ZNet原文

チャック・カウフマン〔Chuck Kaufman〕;2007年8月19日

1980年代にワシントン・ポスト紙は、ニカラグアにおけるサンディニスタ革命を攻撃するため、社説欄の様式に磨きを掛けた。それに伴ったものは、半真実や完全なる嘘、当てこすりや根拠のない憶測を織り合わせた複雑で入り組んだ社説の数々である。これらの社説は200単語に制限された投書で反論することは不可能であった。この「大嘘」戦略が効果的なのは、真実で返答するためには大元の嘘よりも多くの言葉を要するためである。

ワシントン・ポスト紙は今、この「大嘘」戦略をベネズエラにおけるボリバル主義の過程とその民主的に選ばれたウゴ・チャベス大統領に対して用いている。2007年8月17日付の社説は、この戦略の模範的な例である。それは「現金払い持ち帰りの法則Cash-and-Carry Rule」と題され、その副題は「ベネズエラのウゴ・チャベス、オイルダラーと『改革』に向けたもう一押しで独裁政権を固める」とあった。

米・ベネズエラ関係や、石油の富を貧しい大多数の利益のために利用することを目指したベネズエラにおける過程を失敗させる組織的運動という重要な問題について、「米国・ベネズエラ連帯ネットワーク」は、真剣な読者を啓蒙する公共サービスとして、ワシントン・ポスト紙社説の一文ずつの脱構築を以下に提供する。

ワシントン・ポスト:このベネズエラ人実業家は検査官に彼のスーツケースの中には本や書類以外には何も入っていないと述べた。従ってアルゼンチンの税関検査官らがそのスーツケースを開け、現金で80万ドルを見つけた時の驚きを想像するといい。ウゴ・チャベス・ベネズエラ大統領の公式訪問の直前、8月4日にブエノス・アイレスに持ち込まれたこの現金の出所と行き先は、南米において今最も話題をさらう謎になっている。

事実:ワシントン・ポスト紙は単一の事実――ベネズエラ生まれで、フロリダ州のキー・ビスケーンに在住する実業家が税関申告されなかった79万5500ドルと共に、8月4日にアルゼンチンに入国したところを取り押さえられた――を取り上げて、チャベス大統領に関連付けるほのめかしに用いた。まず第一に、このベネズエラ人実業家に関する第一報は、米国に関連した出来事として記述されていた。次に、彼をチャベス、あるいはベネズエラ政府に結びつける一握りの証拠すら提示されていない。彼が今年幾度かそうしてきたように、チャベスは8月7日にアルゼンチンを公式に訪問した。ポスト紙の社説が犯しているのは、ラテン語で「この後に、故にこのために」を意味するpost hoc, ergo propter hocという〔前後関係と因果関係を混同した〕論理的誤謬である。2つの出来事を互いに結び付けるものは何もない。訳注1

ワシントン・ポスト:その一方で明白なことは、この現金に溢れたスーツケースが、チャベス氏がオイルダラーを用いてキューバ、ボリビア及びおそらくニカラグアの指導者を含む反米ネットワークを構築してきた方法の適切な隠喩である、ということである。

事実:この「現金に溢れたスーツケース」がチャベスに繋がっているという事実に基づく主張を展開しようとワシントン・ポスト紙が心がけもしないことはひとまず置いておいて、中南米統合というシモン・ボリーバルの夢を追求し、保健、教育、食の安全や家庭の所得を生み出すためにベネズエラがオイルダラーを利用していることが、反米主義であると決め付けられていることは興味深い。ということは、病気や無知、飢えや貧困は親米を意味するのであろうか?

ワシントン・ポスト:チャベス氏はこの好機を捉え、憲法「改革」という待ちに待った一括案を公表した。予想通り、それらは自己権力拡大的であり、ベネズエラで未だ残っている民主主義と呼べるものに対する脅威である。

事実:チャベスが「捉えた」とされる「好機」とはどのことなのかは不明確である。それは「現金に溢れたスーツケース」という好機なのか、あるいは「反米ネットワーク構築」の好機なのか? これは、特にそれがベネズエラ民主主義が脅かされているというほのめかしに結び付けられているために、先行する裏付けのない主張を補強するための修辞的技巧でしかない。更に、改革〔という語〕は引用符で括られている。疑いなくポストはそのスペイン語の単語が改正〔amend〕を意味するreformar であることを承知している。改革〔reform〕という英単語の一般的な慣用法は「良い〔good〕」変化という意味を含むのであり、従って改革という単語を用い、それを引用符で括ることによってポストの社説は読者がその逆を頭に描くことを意図している。

ワシントン・ポスト:彼の現行の6年の任期が満期になる2012年から、チャベス氏が自らを7年毎に再選させることを可能にするべく、彼らは大統領任期を拡大させ任期制限を撤廃するであろう。

事実:これは事実に基づいており本当である。とはいえ、「自らを7年毎に再選させることを可能にする」という言い回しは、より正確には、「7年毎に再選のために立候補することを可能にする」と言い表されるべきである。チャベス大統領は2006年12月の選挙で、75%の投票率で63%の票を得て勝利した。それは1964年以来のどの米国大統領が獲得したよりも高い総体的な有権者支持率である。もしベネズエラ人が自由で公正な国民投票で大統領任期制限を撤廃することを決定するのであれば、それは完全に内政問題である。次の選挙で彼らが誰に投票するのかは、時期尚早であり誰にも分からない事柄である。そしてもし大多数のベネズエラ有権者がチャベス大統領が良い結果を生み出していると感じ、彼を在職させるために彼らが投票するならば、それもまた彼らの民主的な権利である。

ワシントン・ポスト:先の大統領選での彼の対抗者はある州知事であった。また、提出された改正案は州知事や市長の力を弱めることになる。

事実:これは不合理な推論〔Non Sequitur〕という詭弁であり、その論理的誤謬が述べられていないゆえに、編集者ではなく読者が間違えるよう強いるものである。それは以下の様である。もしチャベスの対抗者マヌエル・ロサレスが州知事であったのなら、またもしこの憲法改正が州知事の力を弱めるのであれば、チャベスは将来より劣った対抗者を持つことになる。

ワシントン・ポスト:最も脅威となることは、チャベス氏が正規の国軍とは別に「人民軍〔popular militia:milicia popular〕」を確立することを望んでいることである。おそらくこの新たな軍が、チャベス氏がロシアから購入したばかりの5千丁の狙撃銃の意図された受領者なのであろう。

事実:誰に対して脅威となるのか? 大地主たちが土地改革の試みに抵抗している地方で多数の農民が殺害されてきた。内戦の両方の側の武装したコロンビア人がその国との間にあるベネズエラの国境侵犯をしている。米国大使館が軍用の航空機の部品を「外交行嚢訳注2」の一部として運び入れているところを取り押さえられた。ある米国大使館付海軍武官がベネズエラの軍事上の機密の買収を試みたことで追放された。コロンビアの準軍組織勢力を利用しクーデターを誘発する策略が、大量の武器貯蔵が発見された時阻止された。そして進歩的な中南米諸政権を転覆させるための「低強度戦争」という米国の教義はベネズエラにおいてよく理解されている。それに加えて、ブッシュ政権によるベネズエラに対する武器禁輸措置のために、ベネズエラが軍備をロシアを含む非米国筋から完全に再構築しなければならなかったことをポスト紙は言及しそこなっている。この予期しなかった出費にもかかわらず、ベネズエラの軍事費は近隣諸国のそれよりも著しく少ない。

ワシントン・ポスト:この最新の権力掌握は、12月の三期目当選以来チャベス氏によって採られてきた他の方策と同類のものである。彼は公共事業や福祉の財源を彼の統制の下にある「地域住民委員会〔consejos comunales〕」を通して注ぐことによって、現行の政府機構を弱体化させてきている。〔地域住民委員会は〕彼が改正された憲法の下、加速させることを約束している過程である。

事実:どういうわけか、「権力掌握」という語句は、チャベス大統領が三回当選してきた事実を含む文中ではそれほど説得力がない。更に彼は就任1年目に、憲法制定会議によって書かれた1999年の憲法の承認を得ており――それが彼の1期目が旧憲法の下満期になる前に再び立候補することを要し――また彼の最後の任期〔二期目〕の中途に、憲法上許された2004年の罷免選挙で彼は勝利した。専制君主、独裁者や反民主的という言葉は、国際的に公認された5つの選挙で各々約60%で勝利してきた人物に用いられるよう意図されたものでは決してない。「大嘘」戦略の構成要素のひとつは、嘘をひんぱんに繰り返せば人々はそれを信じる、というものである。

また、「地域住民委員会が彼の統制の下にある」と言うのは全くの誤りである。近隣住民や小規模な地域共同体が彼らの共同体の需要を判断し、それらの需要に取り組むべく公共財源を管理運営する上で重要な役割を担う地域住民委員会は、数年毎に単に投票することを越えた民主主義の実践を展開し発展させることを目指した現代の最も重要で励みになる動向のひとつである。「ボリバル革命」が選挙を通した平和裏なものである故に、旧政権の評判を落としたエリートたちは行政機関における立場を維持し、チャベス政権の大衆受けする諸計画の目的達成を妨げた。地域住民委員会は議事妨害をする職業公務員らを迂回したのであり、参加型民主主義における刺激的な実験なのである。

ワシントン・ポスト:彼は電気通信・電力・石油諸企業を国有化し、新しい社会主義政治政党〔統一社会主義党:PSUV〕を確立した。彼は独立したテレビ局を強制的に放送から外し、その一方でベネズエラの公共空間を彼自身の笑顔の肖像で満たした。

事実:この箇所がベネズエラにおけるボリバル主義の過程に対するワシントン・ポスト紙による敵意の核心である。「ワシントン・コンセンサス」による自由貿易を、そして諸政府を経済政策決定から除外し、企業利潤を抑制させずにおくことを目指した他の新自由主義政策を支持する強固な表明者のひとつがワシントン・ポストである。それらの政策は中南米の大多数にとって徹底的な惨事であった。彼らは1980年代以来生活水準の急落を体験してきた。豊富な天然資源のためにベネズエラは新自由主義に対する代替案を推進する経済的手段を有している。例えば同じ立場の国々の間の貿易が需要と連帯を基にしている米州ボリバル代替統合構想(ALBA)がある。これがポストやその企業後援者らにとっての憎悪の対象である。

驚くべきことに、右翼テレビ局RCTV〔ラジオ・カラカス・テレビ〕の公共電波放送免許を更新しないとう決定をワシントン・ポストは最大限に利用しなかった。あらゆる先進国は公共放送利用のために免許を与え、局が一定の「公益」規定に従うことを要請する。2002年クーデターを活発に支持し、放送規定に組織的に違反してきた局の免許を更新しないことは、取るに足りないこととして扱われるべきであった。RCTVが衛星とケーブルからベネズエラの視聴者に対して放送を継続している事実ゆえに、局が閉鎖されたという含みを与えるためには、ポスト紙は「放送から外す〔off the air〕」という言い回しを使わざるを得なかった。

ワシントン・ポスト:要約すれば、チャベス氏の「21世紀の社会主義」は気のめいるほどに20世紀のそれを踏襲しているように思われる。つまり、横暴な独裁者によって率いられた肥大し抑圧的な国家である。チャベス氏は中東の石油国家の一定の方法論――例えば国内で大衆の支持や沈黙を金で買うやり方や、海外の同盟国の買収――を加えることによって、そのモデルを調節してきた。チャベス氏の師であるフィデル・カストロは、基軸通貨〔国際的に交換が容易な通貨〕の欠如によって社会主義への道のりでつまずいた。それに反してチャベス氏はドルを地下から汲み上げることができる。

事実:どれだけの数の感情に溢れた言葉をひとつの段落に詰め込むことが可能なのか? 見てみましょう。社会主義、肥大した、抑圧的、横暴な独裁者、中東、大衆の支持を買う、沈黙、同盟国を買収、フィデル・カストロ。それが意図していることは、いかなる証拠も実際には示さずに読者に不快な印象を与えることである。そしてその大部分は嘘である。それに取り組んでいる者達ですら「21世紀の社会主義」がどのようなものになるかを知らないのである。とはいえ、ベネズエラにおけるこれまでの実際の変化を基に言えば、それは熱心な社会主義者たちが満足するよりも遥かに強固な資本主義の構成要素を伴うであろう。ベネズエラを「横暴な独裁者によって率いられた肥大し抑圧的な国家」であると見なすことは、実際の根拠なしに学校の運動場で悪口を叫ぶ水準へとこの編集者を落ちぶれさせることに等しい。石油の富のより公平な分配のために貧困から抜け出しているベネズエラ国民の大多数は、彼らの「沈黙」が金で買われているということに関してポスト紙に同意しないかもしれない。つまり彼らはそれがベネズエラ市民としての彼らに当然帰属すべきものであると考えるかもしれない。これこそ、革命的な考えである! 海外の同盟国の買収に関してだが、裕福な諸国には貧しい諸国を助ける義務があるという共通の信念がありはしなかったか? 何故ベネズエラの援助は「同盟国の買収」で、米国の援助は人道主義的、あるいは民主主義構築なのか? 最後に、私達はキューバの社会主義がつまずいた事実を見逃したようである。フィデル・カストロが病んでいることを考慮しても、それは大分安定しているように私達には見える。そしてそれは米国政府による48年の容赦ない敵対行為にもかかわらず、未だに独立した状態にある。

ワシントン・ポスト:腐敗し腐敗させられているとはいえ、ベネズエラと西半球両方にとってチャベス氏の軍国主義的な常套手段には紛れもなく強い影響力がある……

事実:企業新聞の社説欄を掌握すると、どうやらどんなことでも言えるようである。「腐敗し腐敗させられ〔corrupt and corrupting.〕。」これはどういう意味なのか? 疑いなくそこには腐敗した個人が存在する。ワシントン・ポストの数十年の間の数人の盗用者を含め、全ての人間の活動に存在するのと同様に。しかしチャベスが政権についている間に私腹を肥やしたという信頼できる主張は成されておらず、またポスト紙の「大嘘」キャンペーンの最も重要な要素がウゴ・チャベスを名指しで非難することによってボリバル主義の過程を個人化することであるゆえに、その腐敗の非難は彼に向けられているに違いない。どこにその証拠があるのか。そして腐敗させられるとはどういう意味なのか? それは、ベネズエラの人々が国富の公平な分配を通して貧困から抜け出しているのを目の当たりにすることが西半球の人々を腐敗させる、ということなのか? 確かに、それはおそらくそうかもしれない。これは1980年代のニカラグアに似ている。それを英国のオックスファム[〔オックスフォード飢餓救済委員会〕は「良き模範という脅威〔threat of a good example〕」と呼んだ。もし人々が、彼らの労働や彼らの資源を企業が盗むことを受け入れる必要がないということを知ったら、あるいは米国がくしゃみをした時彼らの政府が風邪を引く必要がないことを知ったとしたら、彼らは自立や主権という概念を再発見し始めるかもしれず、そしてそれは軍国主義者や企業グローバル化推進者ら、重役らや企業メディアにとって、まことに悪い知らせになるであろう。

そしてまた、ボリバル主義の過程を「チャベスの軍国主義的な常套手段」とレッテルを貼ることは事実に基づいていない。ベネズエラの軍は近隣諸国を、あるいは国民すらをも脅かしてはいない。それはその国で最も尊敬されている機関のひとつである。

ワシントン・ポスト:そして、弱体化するベネズエラ野党との、対立を引き起こす抗争で彼が権力を誇示することを享受していることに疑いはない。それ故に、さらにもうひとつの改憲運動の着手なのである。野党が浅はかにも先の選挙をボイコットしたために、国民議会全体がチャベス氏を支持しており、彼の案は可決される見通しである。その次の段階は今年の国民投票であり、それはことによるとチャベス氏が自らを終身大統領に仕立て上げるのを妨げるベネズエラの最後の機会になるかもしれない。

事実:ポスト紙が行っていると思われる主張は以下である。

1.ベネズエラ野党が人口の大多数である。

2.彼らは愚かにも先の国民議会選挙をボイコットし、それはボリバル主義の過程の支持者達によって構成された議会という結果に終わった。

3.国民議会の大多数はこの憲法改正案を承認する。

4.今年、憲法が改正されるべきか否かを有権者が決定を下す国民投票が開催される。

ベネズエラが民主的な過程を経験していることを認めることによって、いかにしてワシントン・ポスト紙はその結果がチャベスの「自らを終身大統領に仕立て上げる」ことであるという結論に至るのであろうか? どうやら、彼らは彼らの読者が論理的誤謬を認識できないと信じているようである。それらを十分に羅列し、ひんぱんに繰り返しさえすれば。


訳注:

1.日本語での報道は「亜、ベ両国巻き込む汚職か 鞄から七九万ドルの札束 」(サンパウロ新聞)がある。

2.外交行嚢(diplomatic pouch又はdiplomatic bag):調査や押収を免れる外交特権を有する入れ物。封筒、小包、輸送コンテナ等が含まれる。実際のバッグである必要はない。汚職した政権を持つ国のいくつかは外交特権をドラッグの密輸入に利用しているという主張がある。(英文参照元

posted by Agrotous at 23:26 | TrackBack(0) | ベネズエラ
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