2007年07月22日

南の銀行:全てが薔薇色ではない
〔Bank of the South: Not Everything is the Color of Roses:Original Article in English/Venezuelanalysis原文

エデュアルド・ディマス〔Eduardo Dimas〕Progreso Weekly;2007年7月12日

各国がそれ自体の国益を持っており、それが指導的な社会階級と政権に就いている政府の種類に応じて様々である、ということは自明の理である。中南米において、それは諸国家が取っている異なる立場から完全に理解することができる。

ある国家はアメリカ合衆国との自由貿易協定(FTAs)――ほとんどの国民に影響を及ぼす協定――の加盟国である。その他は社会的公正を追い求め、貧しい人々の生活状態を改善することを望んでいる。いくつかの国家はFTAs を受け入れず、ある程度国粋主義的な政策を維持しているのだが、新自由主義計画を放棄しているわけでもない。

要するに、この地域を悩ませる問題の数々に直面するとき、統一性よりも不一致のほうが生じ易いのである。

南米南部共同市場〔メルコスール〕(Mercosur)が、筆者が述べていることの最適の例かもしれない。発足時に調印した四カ国(ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイとパラグアイ)は単なる貿易関係の範囲を越えることはなかった。その関係から、世界第10位の経済国であるブラジルはうまい汁を吸い、アルゼンチンがそれに続いた。

昨年のベネズエラの加盟や、この地域全域にエネルギーを保障するためのウゴ・チャベスの諸計画、発展と経済的補完性〔economic complementation〕のための案、そしてこれら五カ国のほぼ全ての国民を苦しませる深刻な社会問題に対する解決策は、メルコスールが取る立場において幾つかの建設的な変化を許してきた。それは更にボリビアの、そしてことによるとエクアドルの加盟によって強化され得る。

言い換えれば、この地域の経済的・政治的統合のための条件は今現在生み出されている最中にあり、それはアメリカ合衆国とのFTAを結んでいない諸国において特に当てはまる。未だ分からないことは、ウルグアイ政府がどの道を取るのか、ブラジルの次の一手、また統合過程を危険にさらす可能性があるパラグアイにおける選挙の結果である。

統合に向けた取り組みの一部は南米共同体〔CSN:訳注1の創設であった。その機関は、数々の問題や矛盾があったにもかかわらず、スペインからの独立の時代以来採用された中南米の統一に向けた主要な一歩である。この地域におけるアメリカ合衆国の主要な同盟国――コロンビア、ペルーやチリ等――ですらも共同体への加盟を辞退しなかった。

南の銀行訳注2は、その経済・政治的統合という大事業の一部である。その主要な目標は、加盟国を経済的な見地から手を貸し、諸国の通貨に対する投機に至りかねない問題に対処することである。また単独で又は他の加盟国と共に行う社会事業や基幹施設の建設に対し低利で融資することである。

すなわちそれは、再調整や民営化計画でその地域の経済に多大なる損害を与えてきた国際通貨基金(IMF)、世界銀行(WB)や米州開発銀行(IDB)の融資や方策から中南米諸国を解放することである。

注目に値する事実は、これまでのところ、複数の諸国がIMFと世銀に対する負債を完済したことである。ベネズエラの様な他の諸国は、その様な機関から脱退したり、あるいは国家経済に対する機関の権威を認めなかったりしている。

筆者はそれが国際金融機関に対する反逆であるとは思わない。むしろそれは、それらの機関の要求がもたらした不十分な成果という帰結に対する筋の通った反応であろう。アルゼンチンが最適な事例であるのだが、それが唯一ではない。

この計画は最良のものである。すなわち、加盟国を財政的に独立させる銀行を創設し、商取引のために危険なドルの代わりに共通の流通貨幣を行く行くは発行する。その通貨は後に国際通貨になることもあり得、そのことが中南米諸国に国際舞台におけるより大きな影響力を与え得る。

皆が南の銀行の役割について同意しているわけではなく、運営すべき方法や、従うべき規約に関しては尚更一致していない。一方、新自由主義モデルの鉤爪は提案のいくつかに傷跡を残し、相互援助や補完性を基礎に置くべき機関に不調和を引き起こしている。

その原因はことによると、南の銀行の規約の草稿を書いた人たちのなかに、新自由主義イデオロギーに染められた者がおり、そのイデオロギーを誰もが破棄する気がある(あるいは破棄する仕方を知っている)わけではなく、あるいは単に新自由主義が彼らの利権に適しているからかもしれない。

3月29日に提出されたアルゼンチンとベネズエラによる企画案に、銀行創設の主要な立案国のひとつエクアドル政府によって退けられた新自由主義的要素の多くが含まれているという事実は評者らを驚かせた。

銀行の運営形態に関して、5月3日に公式に参加を表明したブラジル政府の見解は未だ正確には知られていない。

説明するのが極めて困難な経済的側面に触れることなく、南の銀行の規約に対する2つの企画案――6月後半に加盟国の最高首脳会談で検討される――にここで目を向けてみよう。

この着想を最初に取り上げた二ヶ国であるアルゼンチンとベネズエラは、開発銀行と通貨安定のための通貨基金としての役割を同時に果たす銀行の設立を提案している。

批評家らによれば、この提案は銀行の役割が、資本市場や産業、エネルギー、貿易や基幹施設(道路、鉄道等)の開発であるべきであると強調しており、文化的・教育上の政策や環境保護に対する必須の優勢権を与えていないという。

別の箇所でアルゼンチン・ベネズエラ提案は、決定を要する如何なる時も投票権が各国の出資額につり合うべきであるとしている。例えば、ブラジルあるいはベネズエラがパラグアイあるいはエクアドルよりも二倍又は三倍多く出資した場合、その投票権は2票又は3票と数えられるべきである。

それは度々批判されてきたIMF、世銀、IDBによって用いられるのと同一の決議規準の適用を意味する。

アルゼンチン・ベネズエラ案は更にアジアやアフリカの諸国がオブザーバーとして参加する余地を与えている。だがその選択肢は、南米の機関としての銀行の規模を改めることになるであろう。

より悪いことに、批評家らによれば、この提案が銀行の関係者に対する「免除、控除及び特権」についてのみならず、「公文書の不可侵性」に言及していることである。この部分は、上記で名を挙げた国際金融機関の法規から写し取ってきたように思われる。

ベルギーの経済学者で、第三世界債務帳消し委員会〔CADTM:訳注3の代表エリック・トゥーサンは、アルゼンチンとベネズエラによって提出された文書はネストル・キルチネル政権の政治的態度に完全に一致しており、その一方でウゴ・チャベス大統領によって採られている立場とは完全に矛盾している、と(筆者の意見では理由があって)指摘する。トゥーサンはこの提案がベネズエラ大統領によって読まれず又承認されなかったのではないかと(筆者の考えでは理由があって)確信している。訳注4

真相は遠からず分かるであろう。一方でもしベネズエラが銀行への主要な貢献国のひとつになることや、ボリバル革命の方針が発展を奨励し社会問題に対する解決策を見つけることであることを考慮すると、その拒否権は銀行の融資が商取引のために資金を必要とする寡頭勢力の手に渡ることを妨げることを許すであろう。

更に留意すべきことは、銀行に加盟する政府の全てが同一の行動指針や目標を持っているのではなく、中には貧しい者に損害を与え金持ちの利益に特権を与える国もある、ということである。

エクアドル政府によって提出された案は、3つの制度の創設を構想する。すなわち、地域通貨基金、南の銀行、そして南の通貨、つまりこの地域の諸国間の貿易に利用される単一通貨である。報道によれば、この単一通貨はベネズエラ、ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ及びボリビアによって受け入れられた。

エクアドル提案が指し示すことは、これらの制度が「人権の効果的な実践」を保障し、「また諸国民の経済・社会・文化的な権利に関係する国際的な協定、規準や条約の適用」を許さなければならないことである。

それは更に、資金の調達は加盟国の資本出資から、加盟国によって銀行に貸し出された貸付金から、そして銀行に移される共通税からでなければならない、と仮定する。この報告は通貨取引税〔トービン税〕、多国籍企業によって他国へ送還される利益、環境保護やその他に対する課税に言及している。

アルゼンチン・ベネズエラ案とエクアドル提案の間の本質的な差異は、銀行と基金の運営及び活動の年次報告書を提出する仕組みを各国家が施行しなければならないことを後者が強調している点である。銀行と基金の記録文書は公開されなければならない、とエクアドルは言う。例外は投機を誘発しかねない情報の場合や他の場合である。

決定が下された場合、これらが南の銀行と地域通貨基金を生み出すこととなる2つの案である。この様に、この2つの文書の間には、目標は同一であれ、いくつかの点で大きく食い違っている。従って、どちらの案が採用されるのか、あるいは最初のふたつの最善の要素を取り込み3番目の案が創出されるのかを決めるのは諸大統領しだいである。

これ程の好機はないであろう。なぜなら南の銀行の将来の加盟国のいくつか、特にブラジル、アルゼンチンとベネズエラが大量の通貨準備を保有しているからである。

多くの場合、ウゴ・チャベス大統領が指摘したように、資本主義諸国の銀行に預金されているこれらの通貨準備は、国家経済の発展や地域統合を促進することや、その地域の諸国を悩ませる由々しい社会問題を解決するどころか、それらの〔資本主義〕諸国の支出や浪費に使われている。

もし加盟国が望むのならば、南の銀行は南米の歴史的な諸問題に対する単なる解決策のみに留まらない措置を開始するのに十分な資金を保有し得る。それは経済的自立や、その延長として政治的自立のための基盤に成り得る。

多くの強力な反対者を(言うまでもなく)もたらすこの方策に対処する十分な政治的意思を大統領らが持っているのかどうかは未だ分からない。様子を見よう。時が告げるであろう。


訳注:

1.南米共同体(スペイン語:Comunidad Sudamericana de Naciones、ポルトガル語:Comunidade Sul-Americana de Nações、英語:South American Community of Nations)は「2004年12月9日にペルーで開催した南米12ヵ国の首脳会議の宣言で打ち出された政治、経済での統合組織。」(参照元)その名称は、2007年4月16日の第一回南米エネルギー・サミットにおいて南米諸国連合に変更された。各言語の表記はスペイン語:Unión de Naciones Suramericanas 、ポルトガル語:União das Nações Sul-Americanas、英語:Union of South American Nationsで、UnasurあるいはUnasulと省略される。(英文参照元

2.南の銀行(スペイン語:Banco del Sur、ポルトガル語:Banco do Sul、英語:Bank of the South)の他の表記は南米銀行、南銀行、南部銀行、南米開発銀行、バンコ・デル・スル、バンコ・デル・スール、スール銀行、等がある。

3.原文では「Third World Committee Against Foreign Debt」と表記されているが、「Committee for the Cancellation of Third World Debt」への言及であると推測し「第三世界債務帳消し委員会」と表記した。

4.南の銀行に関するエリック・トゥーサンの翻訳記事は「ジュビリー九州」の「ラテンアメリカで世界銀行に代る"南銀行"設立の動きが具体化」で読むことができる。

posted by Agrotous at 22:33 | TrackBack(0) | 中南米全般
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