2006年05月22日

〔本文リンク原文ママ〕


広範囲戦争
いかにしてドナルド・ラムズフェルドは中南米でワイルド・ウェストを発見したのか
〔The Wide War
How Donald Rumsfeld Discovered the Wild West in Latin America:Original Article in English/ZNet原文

グレッグ・グランディン〔Greg Grandin 〕TomDispatch ;2006年5月8日

どれ程早く中南米は支持を失ったことか? わずか10年前にクリントン政権は、その地域をグローバリゼーションの約束の宝玉として引き合いに出した。「我らの南部方面」異常なし、と1995年に米国南方軍のバリー・マッカフリー将軍は報告した。「我々の近隣諸国は同盟国であり、概して似たような価値観を共有している。」その2年後にマッカフリーの上官、ウィリアム・コーヘン国防長官は「西半球は世界に教えることが多くある」と述べた。「我々が達成した類いの進歩に世界が到達しようとする今。」

現在、ワシントンの統率に対し、公然と抵抗する指導者達という新たな世代と共に、中南米はもはや世界に対するかがり火としてではなく、「敵対者ら」が潜む暗がりの場所として見なされるようになった。「彼らは観察し、探っている」とドナルド・ラムズフェルドは中南米にいるテロリストについて警告した。彼らは「弱点」を捜し求めている、と。南方軍の新しい司令官バンツ・クラドックによれば、「多国籍テロリスト、麻薬テロリスト、イスラム過激派の資金調達者や勧誘人、違法商人、マネー・ロンダリング〔資金洗浄〕するものたち、誘拐犯[や]ギャング集団」で構成された並外れた紳士の同盟によって、この地域は人質にとられている。

「テロリストたちは南方軍責任区域全域で」「爆破し、殺害し、誘拐し、麻薬を不正取引し、武器を運び、マネー・ロンダリングし、人々を密入国させる」とクラドックの前任者は警告した。クリントンのペンタゴンが別個の問題点として示した諸問題――Foreign Policy誌の編集長モイセス・ナイン〔Moisés Naín 〕が「グローバリゼーションの5つの戦争」として述べた、麻薬、武器取引、知的所有権の侵害、移住とマネー・ロンダリング――は今日、テロリズムに対する統合された組織的活動の一部として理解されている。

中南米におけるあらゆるものに対するペンタゴンの広範囲戦争

中南米は実際に、殺人、誘拐、麻薬使用やギャングの暴力の増大に悩まされ、近年更に危険になっている。けれどもペンタゴンに警報を出させているのは不法行為の増大ではなく、むしろテロリズム専門家や政府高官らの国際安全保障についての考え方の変化なのである。911以後、アルカイダのウィルスの様な能力について多くが語られてきた。アフガニスタンの後援政府が破壊された後ですら、漠然と繋がった関連組織に適応し、拡大するその能力のことを。防衛専門家達は、潜在的な後援諸国が少数で、互いに遠く離れており、効果的な治安維持により資金供給源が断たれた今、新たな突然変異が起きた、と主張する。資金調達のために、テロリストは銃器密輸入者、密入国斡旋業者、ブランド名や特許密造者、麻薬売人、血塗られたダイヤ〔blood-diamond:または紛争ダイヤモンド〕の商人、そして昔ながらの公海の海賊すらとも提携していると伝えられている。

言い換えれば、米国がテロとの戦いで直面している真の敵は、暴力的な過激主義ではなく、開拓時代以来、米国の平和の番人を悩ませてきた、無法状態なのである。数年前に、なぜ議会の世界的対テロ財源法案が、コロンビア軍の左翼ゲリラに対する戦いを支援するため資金を配分しているのかを説明したときに、ジョン・アシュクロフト元司法長官は「テロリズムを引き起こす無法状態は、テロリズムを支援する麻薬売買を豊富にもたらす土壌でもある」と述べた。

対ゲリラ戦論者らは、彼らが「草の根レベルでの全面戦争〔total war at the grass-roots〕」と描写するものを長いこと主張してきた。彼らが意味することは、ゲリラを軍事力で打ち破るのみではなく、ゲリラが活動する社会・経済・文化的領域に対する支配を確立する戦略である。それを彼らは、毛〔沢東〕の有名な格言〔ゲリラは人民の海を泳ぐ魚〕に掛けて、「海の干上がらせ」、または時には「沼地の干拓」と呼ぶ。この拡大されたテロリストの脅威の定義の結果起こることは、全面戦争の概念を、例えばアフガニスタンの山岳に留めず、世界規模で展開することである。勝利は「テロリズムに不親切な世界的な環境の構築を必要とする」とペンタゴンの2006年の4年毎の国防計画見直し〔Quadrennial Defense Review〕は述べる。

テロとの戦いをこれほど包括的に定義することは、米国安全保障戦略家にいくつかの利点をもたらす。米国が世界で最大の軍隊を有している故に、治安部隊の軍事化はあらゆる物と人を対象とした「永続的な監視」を正当化し、同様に「米軍が伝統的に軍事行動をしない世界の多くの地域での、長期的で目立たない駐留」の続行も正当化する。「無秩序が政治・社会的機構の崩壊を引き起こす前に、それを鎮圧する」ために「予防策」を講じること、及び「戦略的な岐路に立つ諸国の選択」を形作ることを正当化する。4年毎の国防計画見直しがそこに含まれると考えているのはロシア、中国、インド、中東、中南米、東南アジア――つまり英国と、ことによるとフランスを除く地球上の全ての諸国である。

「21世紀の新たな脅威は国境を認知しない」故に、ペンタゴンは能率性と適応性という名目で、警察、軍と諜報機関を区分する官僚的な部門を破棄することが出来、同時にそれらが米国司令部に属すことを要求するのである。タカ派はいまテロとの戦いを「長い戦争〔the Long War:訳注1〕」として売り込もうとしているが、より適している用語は「広範囲戦争」であり、それに伴うのは海賊版DVD販売者からベクテル社に反対する農民すべてを含む果てしなく拡大可能な敵の一覧表である。南方軍のクラドック司令官は「反グローバリゼーションと反自由貿易の煽動家」への反対を定期的に呼びかけ、その一方でハーバードの安全保障研究学者で、「変幻自在な敵」という論題の主要な論客であるジェシカ・スターン〔Jessica Stern 〕は、わずかな信頼できる証拠もなしに、ベネズエラのウゴ・チャベス大統領は「コロンビアのゲリラと好戦的なイスラム諸団体」の間の同盟を取り計らっている、と非難する。

中南米のワイルド・ウェスト

中南米において、パラグアイの伝説的な町エステ市訳注2を中心とした、パラグアイ、ブラジル、アルゼンチンの三国国境地帯は、この地球規模の安全保障という広範な見地のゼロ地点〔ground zero 〕である。ペンタゴンによれば、この場所には「国境を越えた無法状態のすべての構成要素が集中すると思われる。」1992年と1994年の、ブエノス・アイレスのイスラエル大使館とユダヤ人共同施設のヒズボラによる爆破事件に、2人のレバノン人が関与していたと疑われて以来、この地域は国防総省の監視事項に載ってきた。

911の直後、国防次官で過激なネオコンのダグラス・ファイスは、米国のアフガニスタン侵略を延期させ、その代わりに、アルカイダの不意を付き「驚かす」ためだけに、三国国境地帯の爆撃を提案した。この地域への注目が高まったのは、〔アフガニスタンの〕カブールで、アルカイダ要員の打ち捨てられた家の壁に張られていた「イグアスの滝の巨大なポスター」とCNNが興奮して呼んだものを米軍兵が発見した後である。イグアスの滝はエステ市から数マイル離れた中南米の最大の観光地である。以来、安全保障専門家やジャーナリストは、その場所を「新たなリビア」であり、ハマスが活動の資金を調達し、アルカイダが訓練キャンプを運営し、あるいは短い休暇のため要員を送る場所として描写するようになった。

リオにスラム街が、メキシコに〔麻薬カルテルや警察の汚職がはびこる〕ティファナが、コロンビアにゲリラ、麻薬王や準軍組織が徘徊する密林があるかもしれないが、このどの場所も三国国境地帯には及ばない。全くもってこの場所は最後の、あるいは少なくとも最も知られた米州の無法地帯であり、ある軍当局者が呼んだようにテロとの戦いそれ自体の「ワイルド・ウェスト〔米国開拓時代の無法地帯〕」である。

ペンタゴンのテロリストの脅威の過熱した定義は、シーア派からスンニ派を分ける区分を、あるいはそのどちらからもマルクス主義者を分ける区分を失くしてしまう。故に、元CIA長官ジェームズ・ウールジーが、三国国境地域のイスラム過激派や犯罪者が、時折互いを殺しあうとはいえ、多くの場合協同する「ある種の3つの異なるマフィア一族」のように共に働いている、と主張するにいたるのである。ジェシカ・スターンが言うには、そこで「本質的に異なる主義を持つテロリストたち――マルクス主義のコロンビア・ゲリラ、米国の白人至上主義者、ハマス、ヒズボラやその他――はスパイ活動に必要な知識や技術を交換するため落ち合う。」エステ市で、「マネー・ロンダリング、銃器密輸、移住詐欺、麻薬密売の様な国際犯罪は、」軍事専門家のウィリアム・メンデル大佐によれば、「再結合し、細胞転移する。」これらの多様な違法取引の収益は、中南米の左翼ゲリラを武装させ、イスラム・テロリズムに資金を注ぎ、ロシアやアジアのマフィア、そしてニカラグアのマフィアすらをも富ませるという――どうやらコルレオーネ・ファミリー〔映画『ゴッドファーザー』の架空のマフィア一族〕を除く全ての者を。噂はペンタゴンの世界に漂う。オサマ・ビンラディンでさえ、非課税のタバコをブラジルへ密輸することで、なかなかたいした利益を得ている、と。

この扇情的な主張それぞれの信憑性を見極めるのは困難である。南米で二番目に貧しい国の二番目に大きい都市であるエステ市は、自由貿易の新興都市であり、おおよそ3万人のレバノンとシリアの移民のみならず、多くが移住・就労証明書を持たない多数の朝鮮人、中国人、南アジア人の本拠地である。この都市は、FBIの元長官ルイス・フリーが一度描写したように、疑いなく「著しい犯罪活動の自由地帯」である。その多国民で構成された通りは、〔ハリウッド映画〕「宇宙戦争」の海賊版DVDや一錠一ドルのバイアグラから、尊敬されたシーア派導師による最新の説法まで何でも売っている露店や、両替商や装甲車で溢れかえっている。毎日ブラジルから4万人以上の人々が友情の橋を渡ってきて、その多くが個人的な利用に、あるいはリオやサンパウロの通りで転売するために、ブランド製品の複製品を捜し求める。穴だらけの国境に囲まれ、大陸内部を大西洋に繋ぐ河川が交差するこの都市が、アンデスのコカイン、パラグアイのマリファナ、ブラジルの武器や不正金の交易場であるのは間違いない。

しかし、この犯罪活動のどれをもアルカイダに結びつけるのは、紛れもない拡大解釈であることが安全保障の専門家らにより確認されている。例えば、数年前、米軍の古参分析家のグラハム・タービヴィルは、その地域でテロリズムが盛んである証拠として、エステ市のレバノン人実業家による3万着のスキーマスクの購入を指摘した。その商取引は「多くの疑問を提起する」と彼は述べた――その内のひとつは、世界で最高のスキー場のいくつかがアンデスの近くであることをタービヴィルが承知していたかどうか、というものである。

この地域をオサマの隠れ家として叙述する新聞記事は当然、調査報道に基づいてはおらず、ペンタゴン高官らや専門家の発言を基にしている。彼らは互いの主張を再利用するか、または中南米の報道界で流布した噂――多くの中南米人がCIAやペンタゴンが流したと主張する話――を採用するのである。三国国境の犯罪活動を他の場所へ分散させようと努めてきたブラジルやアルゼンチンの諜報や治安機関は、この地域にテロリスト要員は存在しないと断言している。

エステ市は、イスラエル、米国、様々な中南米諸国や、さらに中国からのスパイで溢れている。「我々はあまりにも多いので、互いに出くわす」とアルゼンチンの秘密工作員は最近述べた。もしアルカイダの要員達が実際にこの都市を徘徊しているのであれば、公算は少なくとも、その中の一人が既に見つかっているはずである。にもかかわらず、国務省はそのグループが三国国境地帯で活動していることを裏付ける、いかなる「信頼できる情報」も存在しない、と述べる一方で、南方軍のバンツ・クラドック司令官は、ペンタゴンが中南米のいかなる場所でも「イスラムのテロリスト要員を感知していない」ことを認めている

無法地帯に対する支配権の確立

ビン・ラディンの副官らが、スキンヘッドやアジアのギャングの一味と闘いの逸話を交換しマテ茶をちびちび飲みながら、イグアスの滝で休養しているかどうかはともかくも、次から次へとこの地域の諸国がワシントンの政治・経済的な勢力圏から抜け出している正にこの時に、この邪悪な同盟という恐怖は、ペンタゴンが西半球関係の軍事化を推し進める有り余るほどの口実となっている。

国防総省によれば、中南米諸国が刑法施行と国際的な戦争を2つの全く異なる活動であると見なし続ける限り、南の地域全域に展開していると言われている多頭のテロリスト・ネットワークを打ち破ることは出来ない。必要なものは英雄的な統一軍である。多種多様な戦線全てにおいて、いかなる国境をも越えて、犯罪的なテロリズムに対し統合された戦争を行うことができる柔軟な戦闘機構である。ドナルド・ラムズフェルド国防長官は定期的にこの地域を訪れ、警察、軍と諜報機関が統合された仕方で行動できるように、公安当局者に官僚的な障害を取り除くよう催促して回っている。ペンタゴンによればその目的は、「効果的な統治権」を、あるいはより聖書風に言えば「制御されざる領域」に対する「支配」を確立することであるという。その領域は三国国境地帯のような境界地域であるが、さらに貧しい町のギャングが牛耳る区域、行政機関の影響力があまりない奥地や、不法取引が行われる水路や海岸線地帯も含まれる。

今までの所、この計画を実行するうえでペンタゴンが最も成功してきたのは中米とコロンビアである。ブッシュ政権は中米において「現出する国境を越えた脅威」に対抗するべく、軍と警察で構成された多国籍の「即応部隊〔rapid-response force 〕」を打ち立てるよう、その地域の国防大臣らに強要した。組成が進んでいるそのような部隊を、人権活動家らは懸念している。1980年代の同胞の間の殺し合いであった地域の複数の内戦以来彼らは、軍の権限を国境の防衛のみに厳密に制限するべく懸命に働いてきた。

国際政策センターでワシントンの対コロンビア政策を監視する、アダム・イサクソン〔Adam Isacson 〕によれば、米国は「2000年には考えられなかった多数の活動を実行している。」当時、クリントン政権は対麻薬一括財源である40億ドルの一部分たりとも、左翼ゲリラと戦うためには使用されないと約束した。しかし2002年に、新たに大胆になった共和党議会は地球規模の対テロリズム財源法案に、コロンビアの対ゲリラ計画を支援する資金を挿入した。それ以来ペンタゴンは、コカイン及びゲリラに対する「統合された組織的活動」と呼ばれるようになったものを管理するうえで、ますます主導権を握るようになった。過去2年の間に、〔コロンビア〕国内に許可された米国軍の数は2倍の800になった。その内の一部はコロンビア警察官に軽歩兵師団の訓練戦術を教えている。通常その技術は民法施行にではなく、低強度戦争に関連付けられている。だがその多くがコロンビアの対ゲリラ攻撃の実施、警察と軍の部隊の組織調整、そして機動旅団や特殊部隊の訓練や諜報支援に直接関与している。

十分に武装された外交

より総体的に言って、中南米で西半球外交の進路を決めるのは、しだいに国務省ではなく、ペンタゴンになっている。1400人の職員と8億ドルの予算を持つ南方軍は既に、国務省、財務省、商務省と農務省を合わせたよりも多くの資金と資源を中南米に向けている。そしてその権威は増大している。

1961年の対外援助法〔Foreign Assistance Act 〕可決に続く数十年の間、他国の軍と警察に資金と訓練を割り当てるのは国務省の文民外交官の管轄であった。だがペンタゴンは、まず麻薬戦争を、次に対テロ戦争を戦うことで着実にその権力を手にしてきた。それ自体の予算から、現在ペンタゴンは米国が中南米に提供するセキュリティ訓練の内、約3分の2を支払っている。2006年1月に、国防歳出権限法の条項――文民の監視という規則すらなしで外国の軍への数百万の援助を自らの予算から費やす自由を初めて公式にペンタゴンに与えた条項――を通して議会は、この国務から国防への権限の移転を合法化した。911後、この地域に対する米軍事援助の総額は、おおよそ4億ドルから7億ドル以上へと跳ね上がった。以来それは堅実に増大してきており、現在10億ドル代に近づいている。

この援助の多くは中南米の兵士――毎年1万5000人以上――の訓練で構成されている。ワシントンは、その地域の文民指導者らに対する支配力を失っている間ですら、訓練期間中に信念と個人的な忠誠心が形成された士官候補生たちが、彼らの国の指揮系統で昇進すると共に、自らの影響力が増大することを望んでいる。

訓練は、教室での対ゲリラ戦及び対テロの理論と原則で補足された、戦場での致命的な戦闘テクニックで構成される。ペンタゴンの広義の国際安全保障への脅威に一致するこの原則は、冷戦終結以来その地域の国内・国際的な諜報機関を廃止する民間の活動家らの努力をないがしろにすることを目指している。

例えば、チリのアウグスト・ピノチェト将軍による1970年代の悪名高いコンドル作戦は事実上、国家諜報機関の国際的なコンソーシアムであり、左翼活動家の処刑リストを作成する一方で、中南米全域の警察、軍隊と死の部隊の任務を調整・指揮することで、政治的テロの大陸規模の組織的運動を推進した。コンドル作戦はチリが1990年代初頭に文民統治へ復帰した時に廃止された。けれども、似たように統合された機構が、ペンタゴンの特殊作戦および低強度紛争局〔Office of Special Operations and Low Intensity Warfare Conflict 〕が(議会の監督なしに)指揮をとる、新たに打ち立てられたCounter-Terrorism Fellowship Program 〔対テロリズム奨学金計画〕が明らかに復活させようとしている物そのものなのである。毎年この計画のカリキュラムは、数千の選ばれた中南米の奨学生に、本国に帰り「軍、警察と諜報当局者の間の協力」の増強に努め、「その地域のその他全ての政府との、諜報を共有するネットワーク」を設立するよう促している。

冷戦中、ワシントンは中南米の兵士に、彼らの社会で「内部の敵」を取り締まるよう催促し、そのことを反共産主義の軍事政権は大量虐殺への許可として受け取った。今日、ペンタゴンは中南米が新たな「内部の敵」を持っていると考えている。南方軍のクラドック将軍は最近、安全保障協力のための西半球協会〔Western Hemisphere Institute for Security Cooperation 〕(旧称、米州軍学校〔SOA〕、地域の最も悪名高い死刑執行人達の母校)の中南米士官学校生のクラスに、「彼ら自身の政府や彼ら自身の人々に対する暴力を扇動する」反自由貿易の大衆主義者に警戒するよう告げた。

滝のオサマ

中米とコロンビアでのワシントンの勢力圏の外側で、ブッシュ政権は中南米の軍隊の多くが説得困難であることに気づき始めた。冷戦終結が急激な予算の減少をもたらした故に、この地域の運用資金に乏しい軍隊は、米国の資金や訓練や設備を熱心に受け入れ、ペンタゴン主導の会議や机上演習や軍事演習に定期的に参加する。警察機関はマネー・ロンダリングや銃器及び麻薬密輸入取引と戦うため、FBIや国土安全保障省と協働する。

しかし地域的な安全保障当局者らの多くは、広範囲な思想的な十字軍へと彼らを結集しようとするワシントンの試みを拒否してきた。2年前、エクアドルの〔首都〕キトでの西半球国防大臣会議で、ラムズフェルドと同等の地位にある中南米の人々は、南方軍を通じ彼らの活動を組織調整するという提案を退けた。チリ国防大臣は、「安全保障問題において地球規模で行動する国際的な正当性を持つ唯一のフォーラム」は国連であると強く主張した。国家を伴わないテロリズムの世界で国境は意味を成さない、というラムズフェルドの主張に対する返答として、アルゼンチン国防大臣は「我々は我らの国境の面倒をしっかり見ることが出来る」と鼻であしらった。嫌疑をかけられたテロリストが査証を入手したり、国を超えて移動したりすることを妨げるための地域的なリストを作成する米国の計画を、彼らは同様に断固として拒絶した。

思想的な切迫感という感覚を徐々に高めるペンタゴンの試みとは対照的に、地域の軍指導者らは実に異なる合図を発してきた。「テロリズムの原因は原理主義のみではなく、貧困と飢えである」とブラジルのジョゼ・アレンカルは述べた。会議の席で米国の代表団が「麻薬テロリズム」を西半球の第一の挑戦に位置づけようと主張した時、中南米人らは安定に対する主要な脅威は貧困であると力説し、反対した。非当事者の立場から、エクアドル軍の元司令官はこう辛辣に述べた。「中南米にはテロリストはいない――飢えと失業と、犯罪に走る非行者のみである。どうするべきか、バナナで叩くとでも?」

冷戦中に、ワシントンは共産主義の恐怖を結集することが可能で――それを中南米の政治・経済の指導者らは一般的に民主主義の恐怖と解釈し――、よって自らの特定の安全保障の利害を、この地域における共通の安全保障の利害であるように思わせることが出来た。今日、大多数の南米人は米国によるイラク占領に反対しているのみでなく、テロリズム全般について過熱しすぎることを退けている。当然のごとく、世論調査は貧困が主要な関心事であることを繰り返し明らかにしてきた。

昨年、エステ市に近接した、ブラジルの観光の町であるフォス・ド・イグアス市による、911後の悪評を利用した宣伝分野進出は、どれ程中南米人がイスラムのテロリズムに動揺していないかを示している。市政府は主要な諸新聞に、オサマ・ビンラディンの写真を掲げた全面広告をだした。見出しは「世界の爆破で忙しくない時、ビンラディンは数日イグナスでくつろぐ」であった。広告について質問された市の代弁者は「笑いがある所にテロはない」と説明した。

冷戦中に西半球がキューバを孤立させた満場一致とは著しく異なり、この地域の諸政府はベネズエラを、のけ者国家として再定義しようとするブッシュ政権の試みを完全に拒絶してきた。実際に昨年ブラジルは「戦略的同盟」をベネズエラのウゴ・チャベス大統領と調印し、軍事協力とエネルギー開発の共同計画を含めた経済統合を約束した。

あらゆる領域の問題に関するワシントンの多角的な率先に従うことを、この地域が拒否していることは、経済問題の拡大する亀裂を反映しており、テロとの戦いを共通の闘争として位置づけるワシントンの手腕を弱めている。昨年のアルゼンチンでの米州サミットでブッシュに反対する行進をした率直な者や、貧しい者のみならず、その地域の多くのエリートを含めた中南米人は、過去20年間に米国によって促進された自由市場の慣行こそが彼らが抱える問題の源であることを理解している。近年立て続けに国政選挙で、無制限な資本主義に厳しく批判的な新しい中南米左翼が政権に就いてきている。ブラジル、ベネズエラ、アルゼンチンやボリビアとその他の諸国は今、ワシントンの半球の権威と争うべく協働している。

問題だらけの政策

ペンタゴンでさえ、中南米の「粗末なセキュリティー環境」の「原因」は、「貧困の絶望的な状態とみすぼらしさ」に見出せることを認めている。時折、南方軍が最新の年次報告で認めたように、「1990年代の自由市場改革と民営化は、繁栄の約束をもたらさなかった」ことを認めることさえある。だがこの洞察を足場に、例えば金融の自由化とマネー・ロンダリングとの繋がりを突き止めたり、あるいは民営化と安価な輸入品が、地方の農民や都会の労働者を非公式で、多くの場合違法の経済活動へと追いやる状況を調査したりする代わりに、国防総省は現在公然とグローバリゼーションの近衛軍としての立場を固めており、中南米全域での市場の開放を任務の中核的な目標としている。

冷戦中、ペンタゴンは中南米に驚くほどにわずかしか進出していなかった。いくつかのカリブの基地を除き、ペンタゴンの戦略家らは大陸の安全保障の洞察を共有する現地の協力者を通して事を成すことを好んだ。しかしテロとの闘いに中南米を結集させられなかったことや、経済的な国家主義の高まりが相まったことが、ペンタゴンをその地域での歴史的にみればより伝統的な手段である力の誇示への回帰に至らしめた。カリブとアンデスで「協力的安全保障拠点」という遠回しな言い方で知られる小規模だが恒久的な一連の軍事基地を最近打ち立てている。ペンタゴンはそれらを「すいれんの葉」とも呼んでおり、そこから自らが軍隊や設備を前進させ、危機が示すままに自らの重みを「浮葉」からその次へと蛙のように転じ、中南米で自らの力を深く投じるところを想像している。

ここがエステ市に対する強迫観念の登場する場所である。アルゼンチン、ブラジルとベネズエラが一致して米国の野心を和らげようと行動するなか、ブッシュ政権の新たな秘蔵っ子は腐敗し抑圧的なパラグアイである。2003年に、ニカノル・ドゥアルテはホワイト・ハウスに招かれた初のパラグアイ国家元首となった。2005年8月、ドナルド・ラムズフェルドは〔首都〕アスンシオンへと赴いた。歴代国防長官がパラグアイを訪れた初めての事例である。その訪問の後まもなく、ディック・チェイニーとパラグアイの同等の地位の者との会談が続いた。

三国国境地帯から発せられていると噂されるテロリストの脅威が未だ確証されていないとはいえ、それは上記の高官らによる会談のみならず、南方軍に後援された全ての大臣級の会合の協議事項を覆い隠す、効果的な隠れ蓑の役割を担っている。そして打ち鳴らされる太鼓と共に繰り返される主張は幾分かの雨を降らせている。

昨夏、近隣諸国の立腹した抗議を押し切ってパラグアイは、18ヶ月に渡る二国間軍事演習、「国内平和維持作戦」での地元軍隊の訓練、小隊機動演習と国境取り締まりを開始するためにペンタゴンを招き入れた。ワシントンとアスンシオンは、訓練任務はあくまでも一時的であると主張しているが、ブッシュ政権がそこに留まる兆候として、国の北部にある米国により造られた、大規模な軍事航空交通を統御できるマリスカル・エスティガリビア空軍基地を示す者もいる。もしそうであるならば、それはワシントンに、エスタ市のみならず、世界最大の淡水域のひとつであるグアラニ帯水層、またボリビアの重要な天然ガス埋蔵地に対して直ちに攻撃可能な範囲内である、中南米で最南端の橋頭堡〔拠点〕を与えることとなる。

現時点では、クラドック将軍が述べたように、「国境を越えたテロリズム」が中南米の「第一級」の問題である、と述べることは馬鹿げている。とは言え、我々の国家安全保障の支配者層がそうするまで、イラクはイスラムのジハード戦士の隠れ場ではなかった。

現在ペンタゴンは、中南米地域で問題だらけの政策を推し進めている。それは自由市場絶対主義の進撃を続けており、その高官らは、多くの反対の証拠にもかかわらず、経済的向上の機会をもたらし、犯罪を制すると主張している。それと同時に、冷戦中と同じく、それは貧困を生み出す「無法な状態」を封じ込めるべく、半球の軍事化を進めている。そして再度、それは中南米の軍を思想的な十字軍の下に結集させようと試みている。これまでの所、この地域の軍将校らはそれに加わることを拒絶してきているが、ワシントンの説得力のある権威は相当なものがある。ブッシュ政権の半球外交の担当者らがこの進路を辿り続けた場合、待ち受ける大惨事が中南米の多くを、彼らが夢見るエステ市へと、彼らの想像の産物であるワイルド・ウェストへと変容させることも大いにありうる。


グレッグ・グランディンはNYU〔ニューヨーク大学〕で中南米史を教えている。 The American Empire Project seriesの一部として出版されたばかりの「Empire's Workshop: Latin America, the United States, and the Rise of the New Imperialism」の著者。ハーパーズ・マガジン、ネーション誌や他の出版物に寄稿してきた。

[当記事は Tomdispatch.com において初出された。これはNation Instituteのウェブログであり、トム・エンゲルハートによる対案の情報、ニュースや論評を定期的に流している。氏は出版事業でのベテラン編集長で、the American Empire Projectの共同設立者であり、冷戦中の米国勝利主義の歴史であるThe End of Victory Cultureと小説The Last Days of Publishingの著者。]



訳注1:長期戦争、 ロング・ウオー表記あり

訳注2:Ciudad del Este;シウダー・デル・エステやシウダード・デル・ エステ表記あり。エステ市については「パラグアイに行こう」を参照(写真多数あり)

posted by Agrotous at 23:33 | TrackBack(1) | 中南米全般
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ブッシュ「テロ戦争 終わらせるのは君ら」@陸士卒業式
Excerpt:  5月29日付日経新聞朝刊7面の記事によると、アメリカのブッシュ大統領は陸軍士官学校の卒業式で卒業生たちに、 「あなたたちは2001年の同時テロ後に入学した初めての卒業生だ。戦いの始まりを見届けたの..
Weblog: 乳頭おじさんのニュース解説
Tracked: 2006-05-31 09:44
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