2006年01月08日

民主主義の名の下の苦難
イラク、ベネズエラ、ボリビア、ハイチで米国は選挙を利用する

〔Misery in the Name of Democracy
The US Works Elections in Iraq, Venezuela, Bolivia, and Haiti: Original Article in English/ZNet原文

イファット・サスキンド〔Yifat Susskind〕MADRE;2005年12月16日


ブッシュ政権はイラクの12月15日の選挙を、中東全域における民主主義に対する熱情を燃え立たせることを確実なものとする自由へと向かう大きな飛躍として大宣伝をしている。だが米国の更に近くで、政権は民主主義が化け物を作り出し、その化け物が民主主義であることを知った。中南米とカリブ諸国において、一般大衆の諸運動は、米国の「世界への贈り物」が多数決原理の約束を実行するよう要求している。そうすることはおそらく、少数のエリートに利益を与え、大部分の人々の貧困をより悪化させてきた体系――別名「自由市場民主主義」として知られる体系――を崩壊させるであろう。この可能性がCIA長官のポーター・ゴスを非常に警戒させたので、最近彼は中南米の多数の選挙を「不安定の潜在的領域」と分類した。(

〔原文ではここに関連資料が記述されているが、訳文では記事の最後に記した

ブッシュ政権は応戦しており、長きに渡り富の独占をしてきた者たちが政府への独占権を行使することを確保するため、USAID〔米国国際開発庁〕の「民主主義促進」計画を拡大させた。この計画の西半球における中心的な標的はベネズエラ、ボリビアとハイチである。()この諸国の国政選挙は――その全てがイラク〔国民議会〕選挙から1ヶ月以内に行われる――、この半球とイラクの両方において、民主主義を誤った手にゆだねないようにするため、ブッシュ政権が、どれだけの努力をしているかを示す転換点をもたらす。

ベネズエラ

12月4日にベネズエラの主要な反対派諸政党は、投票で確実な敗北に直面するかわりに議会選挙をボイコットすることを選んだ。2002年に――年間約600万ドルに及び、米国民主主義基金により直に資金供給されている――この同一の企業側に立つ諸政党は、ウゴ・チャベスを大統領職から排除するべく軍事クーデターに訴えた。()無数のベネズエラ人(と軍の下層階級)がチャベスの防衛のため結集したことにより、2日もかからずクーデターは失敗した。多くのベネズエラ人は引き続きチャベスを守り、また彼に投票しており、彼特有の参加型であり、下から上への民主主義を守っている。その民主主義は統治についての全国的対話に数百万人の市民を結集させ、その地域の最も民主的な憲法(性差別的でない言葉で書かれ、女性の無給の仕事を認めて主婦に対する年金を保証している)を生み出し、野心的な土地改革計画に着手し、非識字、貧困そして乳児死亡率の割合を改善させてきた。

先月〔11月〕のアルゼンチンでの米州サミットにおいてチャベスは、中南米人の大部分をさらに貧しくさせた米国に推進された経済政策に対する、広く行き渡った反対の中心であった。後に、ブッシュは彼を「民主的な進歩を押し戻す」よう試みたと非難した。()それにもかかわらず、世界の大部分はベネズエラの民主的な進歩に、選挙という限られた基準によってですら、大分感心しているように見える。全くのところ、チャベスの下行われた8つの選挙の全ては自由で公正であるとジミー・カーター〔元米国大統領〕を含めた独立した監視団により宣言されてきた。

まさにこのことが問題なのである。つまり、反対派への広範な米国の後援にもかかわらず、反対派は投票でチャベスを負かすことができないのである。民主主義がまったく機能していない(と一般投票で負けた後に連邦最高裁判所により任命された唯一の米国大統領は言う)。ここ数十年の間、ベネズエラは2つの交代するエリート政党に支配されてきており、その両者とも米国の大企業と結びついていたのである(聞き覚えがないだろうか?)大部分の市民は事実上選挙権を奪われ、選挙は従順な指導者に正当性を与えるとみなされていた。現在、ベネズエラの貧しい大多数は国家の支配を勝ち取るため、その巧言と民主主義の手続きを捕らえた。これこそがブッシュ政権が民主主義の危機と呼ぶものである。

ボリビア

ボリビアも似たような危機に悩まされている。12月18日にボリビア人たちが投票に行くとき、彼らはおそらくエボ・モラレスを彼らの最初の先住民の大統領として選任するであろう。()モラレスは、ブッシュ政権が過激な左翼と中傷し、米国大使がオサマ・ビン・ラディンと比較した社会民主主義者である。だが、モラレスの政策方針は、大規模な貧困とおびただしい不平等を請合う政策を穏健であると見なすときのみ、過激なのである。彼の政策方針は、天然資源に対する政府規制の拡大と、政府をより包括的にする新しい憲法を草案する国民憲法改正会議の形成という、ボリビア社会運動の要求を反映している。

先住民族の農民たちが2年の間に2人の大統領(2003年にゴンサロ・サンチェスと2005年にカルロス・メサ)を転覆させるに足りるほど戦略的に組織され得たことを疑ったらしく、ドナルド・ラムズフェルドはボリビアにおいてウゴ・チャベスが影で策動しているに違いないと述べた。()けれども、先住民運動が突出し始めた2002年以来、ボリビア政治にあからさまに干渉してきたのがブッシュ政権なのである。その年、政権はボリビア人がモラレスを選任した場合経済援助を断つ、と公式に脅迫した。それ以来、米国はボリビアで「民主主義促進」の尽力を着実に拡大させ、親米の先住民運動の形成に何百万ドルという税金を注ぎ込み、一連の消え行く運命にある米国よりの政府のために広報活動運動を生産した。(

ベネズエラにおいてと同様、ボリビアでの米国の「民主主義促進」は、貧しい大多数による政府へのより直接の参加よりも、親企業エリートにより定められた代議政治という観念を支持する。政権にとっての厄介な問題は、ボリビアの先住民を基にした社会運動が規則に則り行動し、制度内で政府に更に正当な代表を獲得しようと努力していることである。

ハイチ

2週間前、5ヶ月の間に4度目となる今回、ハイチは大統領選挙を延期した。投票が1月8日に決まったいま、(2004年2月、米国がハイチの民主的に選任された大統領であるジャン・ベルトラン・アリスティド〔Jean Bertrand Aristide〕の転覆に手を貸した後に、米国により据えつけられた)暫定政権は、2006年2月までの暫定期限を越えて権力を握り続けることとなる(ウゴ・チャベスがこれを試みた場合を想像するといい)。いつ選挙が行われようと、ハイチでの状況は民主的な過程を徒労に終わらせる訳注1。それでもブッシュ政権は選挙が続行されることを要求した。

ライス国務長官はハイチの選挙を「民主主義に向かう、かけがえのない一歩」と是認した。()だが、綿密に観察するといい。ハイチ人たちは投票権を剥奪されている。すなわち、800万人に対して、(免職させられたアリスティド政府により提供された1万と比較すると)わずか数百の登録所と投票所しか設けられておらず、いくつかの大きな――政府支持者の少ない――貧しい地域には登録所が皆無である。()ハイチ人は選挙運動の権利を剥奪されている。政府に対する潜在的な挑戦者は無実の罪、または告訴なしで投獄されている。そしてハイチ人は組織する権利を剥奪されている。9月に政府はハイチ憲法に違反し、政治デモを非合法化し、反政府の抗議者達はハイチ国家警察によりたびたび攻撃されている。ブッシュ政権は190万ドル相当の銃や警察設備を選挙の時期に間に合う形で送ることにより、この弾圧の火に油を注いだ。(10

実際、弾圧がハイチ政府の主要な選挙運動戦略なのである。1990年以来、全ての国際的に正当性を立証されたハイチの選挙は、ラバラス党に大勝利をもたらした。かつてハイチの親民主運動の旗手であったラバラス――その国外追放された指導者のアリスティド同様――は米国「民主主義促進」の犠牲者である。米国に後援された勢力がアリスティドを排除した後、ラバラス党は不可解で暴力的な集団も含む複数の分派に分裂した。欠点のある人権の記録にもかかわらず、一月にラバラスは、その立候補者の出馬が許されたならば、疑いなく再び勝利するであろう。理由は単純である。つまり、ラバラスは貧しい者の政党であり、大部分のハイチ人は貧しいのである。

ハイチで立憲民主主義を支援するどころか、米国は2度に亘ってアリスティド打倒に手を貸した。彼は貧者への社会福祉支出を主張することにより、ハイチ経済に対するワシントンの命令に抵抗した。一番目の1991年当時、「体制転換〔regime change〕」はいまだ秘密な事柄であった。ハイチを奪取し、数千のアリスティド支持者ら(そして、ついでとして全般に貧しい人々)を殺害した軍事的な暴漢たちを後援していたことを米国は否定しなければならなかった。二度目にアリスティドが排除された昨年〔2004年〕までに、事態は変化していた。ペンタゴンの飛行機が彼を国外追放させた。米国は熱烈に「新」政権を迎え入れ、そのなかには来月の見せ掛け選挙勝利に向け態勢を整えた、1991年クーデターの残存者も含まれる。

イラクにおける民主主義:我々の言うとおりに行動する自由

イラク選挙の第一の事実は、それが軍事占領のねじ曲がった影響下で行われるということであり、最初から自由で公平な投票を不可能にしている。イラクの「自由への行進〔march toward liberty〕」は毎度米国の介入により損なわれてきた。その介入は反動的な聖職者らをイラク統治評議会に任命するというポール・ブレマーによる2003年の決定から始まった。この措置がイスラム主義者のイラク暫定政権支配を助け、人口の過半数であるイラクの女性の民主的権利を押し戻すこととなった。

実の所、ブッシュ政権は過半数のイラク人に重要な政策を決定させる意図はないのである。政権はイラクで(一人一票の)直接選挙を行うことを避けてきており、イラクがイスラム国家になることを望むシーア派聖職者のアヤトラ・アリ・シスターニからの圧力があったから譲歩しただけなのである。そしてブッシュのイラクにおける2つの最重要目的――極度の自由市場国家の建設と、長期の軍事駐留の維持――はイラクの有権者に及ばないところに委ねられている。

ハイチと同様、イラクにおける民主主義は主に手続き上の事柄であり、政治的混沌や、立候補者と有権者に対する広範囲に及ぶ暴力にも関わらず、定期的な選挙により証明されるのである。そしてベネズエラとボリビアにおいてと同様、選挙により生み出された政府は、米国政策の台本に従ったときのみ、「民主主義」という肩書きを与えられるのである。

1819年にシモン・ボリバルSimón Bolívarは「アメリカ合衆国は民主主義の名のもとに、アメリカ大陸を苦難で蔓延させるべく運命づけられているかのようだ」と述べた。ブッシュ政権はこの運命をイラクと中東全体に拡張することに専心している。今週イラク人は選挙を行うのであろうが、ブッシュ政権は中南米とカリブ諸国においてと同様に、イラクにおける真の民主主義に関心をもってはいない。

イファット・サスキンド、MADRE Communications Director

 

後注

.an Glaister, "Bush Isolation: Elections Likely to Bring New Alliances and Governments that Defy Old Ideological Labels," The Guardian, 14 November 2005.

.Tom Barry, "Transitioning Venezuela," Americas Program, International Relations Center, 9 December 2005, http://americas.irc-online.org/am/2977.

.Ibid.

.Michael A. Fletcher, "In Brazil, Bush Continues Trade Push," Washington Post, 7 November 2005, http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2005/11/06/AR2005110600636.html.

.John Pilger, "America’s New Enemy," New Statesman, 11 November 2005, http://www.venezuelanalysis.com/print.php?artno=1600.〔日本語訳あり:「米国の新たな敵の出現」〕

."US warns of Bolivian interference," BBC News, 17 August 2005, http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/4158998.stm.

.>Reed Lindsay, "Exporting Gas and Importing Democracy in Bolivia," NACLA, November/December 2005, http://www.nacla.org/art_display_printable.php?art=2603

.Larry Birns and John Kozyn, "Haiti - and You Call This an Election?" Council on Hemispheric Affairs, 11 October 2005, http://www.coha.org/NEW_PRESS_RELEASES/
New_Press_Releases_2005/05.106_Haiti_and_you_call_this_an_election.html

.Brian Concannon Jr., "'Electoral Cleansing' in Haiti Violates Human Rights and Democracy," International Relations Center, 29 September 2005, http://americas.irc-online.org/am/816

10.Marjorie Cohen, "US Pulls the Strings in Haiti," truthout, 29 September 2005, http://www.truthout.org/docs_2005/092905I.shtml

 

関連資料〔英文〕



訳注

1:2006年1月6日付でBBCは国連安保理が2月7日までには選挙を行うよう呼びかけたと伝えた(英文参照元)。


関連記事

他の日本語訳されたイファット・サスキンドによる記事
ブッシュの国連演説の分析(アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名運動)

ハイチ関連
2004年クーデター( 益岡賢のページ)
アリスティド・インタビュー( 益岡賢のページ)

posted by Agrotous at 23:48 | TrackBack(2) | 中南米全般
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